働き方改革の一環として、企業が副業を解禁する動きが進んでいる。日本経済新聞社が東証1部上場などの大手企業にアンケートを実施したところ、回答を得た約120社のうち約5割の企業が従業員に副業を認めていることが分かった。企業側には外部のノウハウを吸収し、人材育成や新事業の開発につなげたいとの期待が大きい。複数の職場で働く従業員の労務管理などの課題も残る。

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厚生労働省は2018年1月、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成した。企業が就業規則の参考とする「モデル就業規則」も見直し、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」との規定を削除した。人材の流動化が遅れていた日本で多様な働き方を促し、イノベーションを後押しする効果が期待できる。

アンケートは3月末~4月上旬、東証1部企業やサントリーホールディングスなど非上場の大手企業を対象に実施し、121社から回答を得た。

副業について「認めており社内で制度化している」と「制度はないが申し出などに応じて認めている」を合わせると、認めている企業は49.6%だった。「認めない方針」は22.3%だった。

副業を認めているか、検討している、または関心があると回答した大手企業94社に副業のメリット(複数回答)を聞いたところ、「社員の成長やモチベーション向上につながる」(76.6%)が最多だった。「社員のセカンドキャリアの形成に資する」(45.7%)などが続いた。

副業を認める動きが目立ってきたのは17年ごろからだ。ソフトバンクは17年11月に認め、現在約430人が副業を持つ。

ユニ・チャームは自社と異なる環境で専門性を身につけたいなどのニーズをふまえ、18年4月に副業制度を導入した。高齢者おむつの事業を担当する社員が介護ヘルパーとして働くなど、本業につながる例も出ている。

コニカミノルタは目的を「イノベーション創出のため」と位置づける。IT(情報技術)スキルを磨きたいといった社員の希望に対応し、副業からヒントを得た事業の提案も出ているという。

日本経済新聞社が18年3月にまとめた「社長100人アンケート」では、副業を認めている企業は31.5%だった。対象が異なり単純に比較できないが、1年あまりで副業を認めている企業が半数に達した。

今回のアンケートは、東証マザーズなど新興市場の上場企業、日本経済新聞社が実施した「NEXTユニコーン調査」の対象の未上場スタートアップにも実施。31社から回答を得て、これらの新興企業の副業容認の割合は74.1%だった。

総務省の「就業構造基本調査」によると、日本の就業者に占める副業率は4%だ。労働政策研究・研修機構によれば、ドイツやフランスは5~7%に達する。日本で解禁が広がれば欧州主要国並みになる可能性がある。

政府も民間の副業解禁を後押しする。背景にあるのは生産性の低さに対する危機感だ。日本の1時間あたりの労働生産性は17年に47.5ドルで、経済協力開発機構(OECD)に加盟する36カ国中20位だ。労働人口が減る中、従来の産業構造では競争力が低下する恐れがある。

プログラミングなどに強いIT人材は引き合いが強く、副業を通じて違う職場でも働ければ日本全体の生産性を高める効果が見込める。経済産業省も人手不足が深刻な中小企業向けに、副業の従事者を活用する支援事業に取り組む。

課題も多い。副業に前向きな大手企業94社に懸念(複数回答)を聞いたところ、「社員の労務管理が困難」(78.7%)で最も多く、「副業中の労災や不祥事などのリスク」(62.8%)が続いた。自社の従業員に副業を認めても、他社の従業員の受け入れには慎重な姿勢もみえた。

MMD研究所(東京・港)などが今年4月、1万人を対象に実施した調査では、現在副業に従事する社会人は13%だった。副業未経験者でも「副業に興味がある」と答えた人は5割を超え、社会的な関心は高い。生産性の向上にもつなげられるか、普及に向けた仕組みづくりが重要になる。

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